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オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡評論(12)
宣言明け上映開始された映画の中ではずば抜けている印象の本作。
震えるような美しさ、しなやかな肢体はスーパーモデルのよう、ただ弱冠20歳の彼女の顔はいつも苦悩に満ち険しく、この年齢がする顔つきではない。真の苦しみを知る顔だ。彼女の笑顔を見られる時間は上映時間中もわずか。
母親のように寄り添うコーチ、成金のような見た目で罵詈雑言を浴びせまくるコーチの二人に挟まれ、常人なら1日とてもたないだろうような練習を繰り返す。大抵あれだけいわれれば、萎縮して余計にダメになるのではと思うが、怒りやあらゆる不幸な境遇さえ利用して、自分のリミットを超えていく。
確かにラストのオリンピックでの演技がみられないのが残念な気もするが、逆に私は、あの淡白な映画的表現こそが、あれだけ無茶苦茶言われてた彼女の凄さを際立たせているようにも感じた。
ネットフリックスで「イカロス」を観ていると、ロシアのドーピング問題もわかった上で理解が深まるだろうが、マムーンがどうかはわからないが死闘を続ける彼女をみていると、穿った見方などとうに消え、ただ成功と平穏を祈ってしまう。
エンドロールをみながら、どうか彼女には幸せになってもらいたいと願うような作品だ。
とにかくリタへの怒涛の罵詈雑言が、笑っちゃうぐらいヒドい。いや、ヒドいを通り越して、よくもまぁこんなに湯水が湧き出るように出てくるなと感心するほど。
宣伝文句では『セッション』や『ブラックスワン』と比較されているが、どちらかといえば『アイ・トーニャ』での、トーニャ・ハーディングの鬼母の関係に近いかも。「あんたはスケーターじゃなくてファイター」という、あの母親のセリフに近い言葉も実際に飛び出す。
当初こそ、イリーナは密着撮影に難色を示していたらしいが、いざ完成してラッシュ映像を観たら満足し、ロシアの映画祭で上映してほしいと頼んだとか。
これこそが強国ロシアの実態。怒られまくり、叱られまくりのリタが観てて気の毒になるが、国の威信がかかっている以上、勝利以外は許されない。
そりゃ他国が勝てないワケだ。