巨匠・溝口健二の代表作で、戦乱の中で世俗の欲に翻弄される人々を幽玄な映像美で描き、多くの映像作家に影響を与えた世界的名作。上田秋成の読本「雨月物語」に収録された「浅茅が宿」「蛇性の婬」の2編にモーパッサンの短編「勲章」を加え、川口松太郎と依田義賢が脚色、宮川一夫が撮影を手がけた。戦国時代、琵琶湖北岸の村。戦乱の到来を機に大儲けを狙う陶工・源十郎と、侍として立身出世を夢見る義弟・藤兵衛は、それぞれの家族を連れて舟で琵琶湖を渡り都を目指す。旅の途中、源十郎の妻子は戦火を怖れて引き返し、藤兵衛は妻を捨てて羽柴勢に紛れ込む。やがて源十郎は、若狭と名乗る妖艶な美女から陶器の注文を受け、彼女の屋敷を訪れるが……。1953年・第14回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた。
雨月物語評論(14)
代表的な短編をいくつか一つの話にして脚色した物語。
京マチ子映画祭で観て来ました。
京マチ子さんが、時には少女の様に恥じらい
時には般若のように怒りに狂って男を追い詰める。
変幻自在の豹変ぶりに目を奪われます。
で、月に8回程映画館に通う中途半端な映画好きとしては
京マチ子さんの演技も見ものでしたが 絡みは一切ないものの、
対照的な名も無い庶民の妻を演じた 田中絹代さんも、
貧しいながらも、本物の幸せを追い求める誠実な役柄で
京マチ子さんの役と遂になる見事な存在感でした。
お話自体は溝口健二監督らしく
人間の愚かしさと戦争の不毛さを描いていますが
それだけでなく、昨年観た「近松物語」と同じ様に
白黒ながらもその陰影の美しさ〜
着物の柄の見事さで身分が伝わるほど違いが判る見事さ〜
@もう一度観るなら?
「こういう映画は映画館で集中して観ないと〜〜」
「八つ墓村」で小川真由美が豹変するシーン、作品名は分からないが小鳥をむさぼっているところを人に見られ化け猫の正体を見破られた女が「見ぃたぁなぁ~」と叫ぶシーンに並ぶ恐ろしさである。
魔性の女ではなく、魔性そのものを体現するこの女優の正体は一体何なのだろう。近日中に観る予定の「羅生門」でもそこに注目してみよう。
総合:80点 ( ストーリー:90点|キャスト:75点|演出:65点|ビジュアル:60点|音楽:65点 )
原作は読んでいないが、よく出来た話だった。戦国の時代に生きた名も無き庶民の悲劇がしんみりと染み入る。
貧しい村に生きるものが、より良い生活を求めてその職人技を生かして商売をして何が悪いのか。現代的視点からするとそうなる。だが戦国時代は商売なんてそう簡単にはいかない命懸けのことなのだという現実を見せ付けられた。また、才能も実力も無いのに武士に憧れる男もいた。
そしてたったそれだけのことでこれだけの悲劇が起き、戦国時代の厳しさと世の無情を見せ付けられた。現代ならば自分の力を試しより良い生活を夢見て失敗しても、これほどのことにはならない。昔の時代の厳しさと、それと比較して現代社会の有難さを痛感した。そのような話の中にとってつけられたような朽木の家の話もあったが、これもまた哀れな話で、姫にも乳母にも男にもそれぞれの立場があり気持ちがわかっていたたまれなかった。
古い作品なので白黒の映像は良くないし、戦いの場面を中心に演出も迫力に欠ける部分がある。それでも面白い作品だった。『山椒大夫』もそうだが、溝口健二監督は世の無情や哀れを描かせたら上手なようだ。