パレスチナ自治区ガザの小さな美容院を舞台に、戦時下の過酷な日常をたくましく生きる13人の女たちを描いた人間ドラマ。ガザで生まれ育った双子の監督タルザン&アラブ・ナサールの長編デビュー作で、第68回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品された。女性客で賑わうクリスティンの美容院。離婚調停中の主婦やヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦ら、様々な女性たちが、それぞれ会話に花を咲かせながら午後の時間を過ごしていた。すると突然、通りの向こうで銃撃戦が始まり、美容院は戦火の中に取り残されてしまう。男たちが外で戦争を続ける中、女たちは他愛ない日常を続けることでささやかな抵抗をしようとする。
ガザの美容室評論(16)
日本の常識と掛け離れすぎているので、付いて行くのに必死でした。
ワガママな叔母さんの多いこと!
「シリアにて」でヒアム・アッバスさんの演技に惹かれたので鑑賞してみましたが、やはり力強い演技で魅力的でした。
音と振動だけで現実と連帯を伝える。
パレスチナのガザ地区にある小さな美容室。
店主はロシアからやって来た女性。
彼女が言うには、ロシアの物価高に辟易したのだ、とか。
従業員は、ほかに若い女性がひとり。
彼女の恋人は、反政府活動をしており、いままさに、美容室の前で監視活動を行っている。
客は、離婚調停中の中年女性( ヒアム・アッバス)、夕方に結婚式を挙げる花嫁。
そのふたりがカット台に座っている。
ほかに、待っているのは、詮索好きで不満を口にしている中年女性、それに連れ立ってやってきたヒジャブを被った信心深い主婦、花嫁の母に、花婿の母と妹・・・
何気ない普段の会話が飛び交っているが、そのうち、美容室の外では戦闘がはじまる・・・
といった物語で、舞台劇やワンシチュエーション・スリラーを思わせるような設定。
全体で84分という短い尺も、そういう類の作品に近い。
前半は、女性たちの他愛ない会話。
誰もが誰かに対して不平不満をしゃべるこの前半は、会話の端々に、パレスチナの現状が窺い知れるけれど、それほど面白くない。
が、後半、美容室の外で戦闘が起こってからは、スリラー的要素が加わり、面白くなる。
ヒジャブを被った信心深い女性が定時の祈りをしている最中に銃声が轟き、店内は停電になる。
従業員の娘の恋人は、やって来た警官に連行されてしまう・・・
命あっての物種。
そんな言葉が脳裏をかすめる。
そんな物騒なところへ、恋人とロシアからやって来た店主は、「慣れればここも満更ではない」という。
まだ、戦闘が激しくなる少し前、件の詮索好きの中年女性が「わたしが首相だったら・・・ あなたは〇〇大臣に・・・」とひとりひとりに役職を与えるあたりも興味深い。
たしかに、生活よりも闘うことを先行してしまう男たちよりは、女たちの方がいい国をつくるかもしれない。
けれでも、そんな彼女たちも、ちょっとしたことで掴み合いの喧嘩を起こしてしまう・・・
戦闘と平和、男と女・・・そう簡単には割り切れぬ、ということか。
エンディング間近になって、カメラが美容室の外へ出ると、そこは大混乱の世界。
世界は、いつでも大混乱。
こういう世の中が世界には、ごまんとある。
あらためて、そう思った次第です。
<追記>
ヒアム・アッバスはイスラエルの主要な女優で、米国の『ブレードランナー 2049』『扉をたたく人』にも出演していますね(後者は主演です)