殺人事件の現場を目撃してしまった女優が、身辺保護の刑事に守られながら困難を乗り越え、裁判で証言台に立つまでの姿を描いた社会派コメディ。監督・脚本は「スーパーの女」の伊丹十三で、これが監督としての第10作目だったが、映画が公開された後の97年12月20日に突然の飛び降り自殺をしてこの世を去ったため、同時に遺作ともなった。撮影は「スーパーの女」の前田米造が担当している。主演は伊丹映画全作品に出演している「スーパーの女」の宮本信子。共演に「瀬戸内ムーンライト・セレナーデ」の西村雅彦、「さすらいのトラブル・バスター」の村田雄浩ほか。「ラヂオの時間」と併せて西村が本作でキネマ旬報助演男優賞を受賞した。タイトルにもなっているマルタイとは、警察用語で身辺保護の対象者を意味し、92年の「ミンボーの女」の公開直後に伊丹が暴力団の男たちに斬りつけられた事件が起きた際に、伊丹自身と夫人の宮本信子が、実際にマルタイとなった経験をもとに本作が作り上げられた。
マルタイの女評論(7)
『マルタイの女』
女優のビワコは殺人事件を目撃、裁判で証言する事を発表する。事件の裏には宗教団体が絡み、ビワコを守る為、二人の刑事が護衛に就く…。
警察用語で、護衛対象及び対象者の事を指す“マルタイ”。
『ミンボーの女』公開時、暴力団に襲撃された伊丹十三監督が“マルタイ”となり、その経験がベース。
また、伊丹監督の遺作としても知られている。
伊丹監督のいわゆる“○○の女シリーズ”では比較的人気が低い気もするが、知られざる世界を勉強になるほど分かり易く、テンポのいいユーモアや宗教団体など社会的問題も併せ、本作も見事なエンターテイメント。
今じゃ2時間のTVドラマでも耳にするが、“マルタイ”という言葉を初めて知った。多分、本作を機に知られたんじゃないかな。
マルサ、ミンボー、マルタイ…、ホントいつもいつも印象的な題材やタイトルを残す。
伊丹監督初の殺人事件モノだが、サスペンスというよりむしろ、マルタイ対象者のビワコと護衛の刑事二人のやり取りがほぼメインと言っていい。
大女優オーラのちょっと高慢なビワコ。
そんはビワコのファンである近松。
堅物真面目な立花。
やはり、立花を演じた西村雅彦がいい。
今泉くんの時とは180度違う堅物刑事。が、かえってそれが笑いを誘う、さすがの個性派。ビワコからの突然の指名で舞台に立つ事になるガチガチの表情と演技と雄叫びは爆笑モノ。
はっきり言って、ビワコとは度々衝突。
でも時には身体を張って守る。カッコいいぜ、今泉くん!(←違う!)
証言すると発表してから、問題の宗教団体からあからさまな嫌がらせ。
愛犬が殺され、不倫してた事まで暴露され…。
周囲からバッシングの嵐。
当然仕事も減っていき…。
勇気を持って正しい事をしようとしてるのに、何でこんな辛い目に遭わなきゃいけない…?
宗教団体のモデルはまず間違いなくアレで、実際にも、いやもっと、陰湿な事をしてたかと思うとゾッとする。
ビワコと刑事二人の友情。
劇中でビワコが主演した舞台劇の迫真さ。
クライマックスの意表を付くカー・アクション。
果たしてビワコは、無事証言出来るのか…?
オチもユニーク。
ホント、伊丹十三は日本映画稀代の天才監督の一人だよ。
何で彼が自ら命を絶たなければならなかった?
今だって、伊丹監督の作品を見ていたかった。
いまいちでした。
伊丹十三作品らしい、ユーモアや知性、ダンディズム、漫画っぽさ、攻撃性、社会性は楽しめましたが、どこからどこまでが本気でどこまでがギャグなのかなんだかはっきりしなかった。とくに最後の主人公(ビワコってどんな名前?)が良いこというところ。
竹中直人の「笑いながら怒る人」を見た気分。
ラストが二重になってるところとか、オウム事件を下敷きにしているところとかはよかったなあ。
見せ場満載で次々面白い。これまでと違って宮本信子が制度や運命に翻弄される側だった。おっぱい丸出しのコスチュームが、偽物だけどそれでも目のやり場に困る。
西村雅彦が逮捕術でエジプトの兵の格好で敵を撃退するところが面白かった。確かにオウム暗殺説があったけど、そうなっても仕方がないほど痛烈に批判的に悪として描いている。
こりゃ面白いわ。