ウオルト・ディズニーによるシネマスコープ劇映画の第1作。原 作はフランスの空想科学小説家ジュール・ヴェルヌの代表作で、1916年に、ユニバーサルで無声映画として映画化されたことがある。脚色はアール・フェルトンが担当し、物語には現代に相応しいように種々手を加えている。撮影は「ケイン号の叛乱」のフランツ・プレイナー、音楽は「砂漠は生きている」のポール・スミス。監督は「恐怖の土曜日」のリチャード・フライシャーである。主な出演者は「スタア誕生(1954)」のジェイムス・メイスン、「星のない男」のカーク・ダグラス、「我が心に君深く」に出演したニュー・ヨーク劇壇の名優ポール・ルーカス、「ローレンの反撃」のピータ・ローレ、ロバート・J・ウィルク、カールトン・ヤングなど。1954年度アカデミー特殊技術賞と色彩美術賞を受けたテクニカラー、1954年作品。
海底二万哩評論(6)
1954年にこれほどまでにリアルで美しい海底を描くとはウォルト・ディズニープロの底力、本領発揮である。物語は海洋冒険活劇でもあり社会派ドラマでもある。主人公ネモ船長は稀代の天才科学者でありながら革新的エネルギー研究の開示を拒んだため政府に妻子を虐殺された恨み故のテロリスト、南大西洋の怪物と恐れられ航行する船舶を次々と潜水艦ノーチラス号で撃破、沈没させている。怪物調査に巻き込まれたパリ博物館の教授と助手、銛打ちの水夫がノーチラス号に拾われ別世界のような海洋体験を重ねてゆく、最後は水夫の流した瓶に入れた手紙で秘密基地が海軍に知られ戦闘となる・・。是々非々であるが航海に密着することでネモ船長は根っからの狂人ではないと伝わってくる、科学への信条も含めて奥深い。ドラマ性を別とすればなんといっても見どころは水中撮影技術と鋸鮫のようなノーチラス号の造形美だろう。ネモ船長の発明した新エネルギーは核を連想させるが19世紀の原作にはない、戦後故の脚色だろう。海洋もので大王イカや巨大オクトパスが絡むのはもはやお約束、船長のペットのアシカ君や亀の甲羅のギターなど小ネタもサービス。同じような時期に作られたチェコ映画「悪魔の発明(1858)」と似通うが格の違いを見せつけられた感がある、文句なしの海洋冒険活劇の名作であろう。