ハリウッドの売れっ子監督とルビッチの映画に出ることを夢見る売れない女優がおかしな旅に出発し、様々な人間を目にしていくスクリューボール・コメディ。「レディ・イヴ」とともに、製作から50年も経ち、ようやく日本公開を果たした。監督は単独で脚本と監督をかねたハリウッド史上初めての映画作家であるプレストン・スタージェスで、美男美女がおりなす破天荒な物語をとほうもないスピードで織りあげていく手法で何本もの作品を監督した。代表作は、本作品の他「レディ・イヴ」「結婚五年目(パーム・ビーチ・ストーリー)」「殺人幻想曲」などがある。撮影はジョン・サイツ、美術はハンス・ドライヤー、音楽はジグモンド・クラムゴールドが担当。主演は、セシル・B・デミル監督の「ダイナマイト(1929)」で注目を集め、サム・ペキンパー監督「昼下がりの決斗」やスタージェス作品によって、一躍スターダムに押し上がったジョエル・マクリー。相手役には、ブロンド・ヘアーがトレード・マークで、スタージェス製作の「奥様は魔女」などに主演しているヴェロニカ・レイク。そのほか、名脇役として有名で、「ジョルスン物語」「スミス都に行く」などのウィリアム・デマレスト、ロバート・ワーウィック、フランクリン・パングボーン、ポーター・ホールなど。
サリヴァンの旅評論(3)
冒頭クレジットで喜劇人への謝辞が告げられる。
”いつでも私たちを笑わせてくれた人たちへ
国や時代を問わずすべての香具師、道化師、芸人たちへ
疲れた心を癒してくれた彼らにこの映画を捧げる”
ビバリーヒルズの豪邸に暮らす若手の映画監督が娯楽映画より社会派のシリアス・ドラマ(オー・ブラザー!)を撮りたいと悩み始める、”貧乏なんて知りもしないのに作れるか”との幹部の諫めに貧乏体験の放浪の旅を思いつく、ストイックな話かと思ったら、いきなり苦行でなく徐々に深みにはまるプロットは秀逸。主役は映画監督、色を添えるヒロインは夢の叶わぬ女優志願だし映画作りが主題だから映画への思い入れも半端ない。
無声映画の頃から爆走する機関車は活動写真の大スターだった。冒頭から007のアバンタイトルばりの機関車の上での格闘シーンから終盤の教会での映画上映、作品はなんとプルートとミッキーマウスのアニメーション(1934)だった、束の間、囚人たちも黒人牧師も童心に返り大笑い。
冒頭の謝辞からすればチャップリンあたりなのだろうが許可が取れなかったそうだ、だとすると謝辞はあてつけの意味もあったのだろうか・・。
劇中に登場した新作「オー・ブラザー!」は同タイトルで2000年にコーエン兄弟によりオマージュされました。冒頭とラストをハリウッドの重役たちとの本音トークで括ったところは「マジェスティック(2001)」を思い出しました。
現代劇顔負けのカーチェースもありペーソスあふれる笑いや人情劇など、映画の魅力のエッセンス、軌跡へのリスペクトに溢れています、映画好きにはたまらない楽しい映画でした。
町山智浩さんの観るべき映画のリストからチョイス