「ヒミズ」から10年間、園子温監督のほとんどの作品で助監督を務めてきた松尾大輔の長編監督デビュー作。それぞれ妹が行方知れずなってしまったエイミとヒヨリが事件の真相を探るミステリーをベースにしながら、姉として生きる2人の心の揺れを描いた。中学を卒業後に上京したエイミは、故郷の滋賀で暮らす妹のユウに東京での生活を勧める。最初は拒みながらも、なぜか急に東京に来ることを受け入れたユウだったが、引っ越し早々に行方不明になってしまう。そんな中、エイミは同じく妹が行方不明になっているヒヨリと出会う。やがて地元の琵琶湖で若い女性の遺体が見つかったとの連絡が警察からエイミに入るが、その遺体はユウではなくヒヨリの妹だった。エイミ役はNHK朝の連続テレビ小説 「なつぞら」でドラマデビューした鳴海唯、ヒヨリ役はマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに同行した経験を持ち、映画「ドリームズ・オン・ファイア」では主演も務めた仲万美。そのほかユウ役で「由宇子の天秤」の河合優実らが共演。
偽りのないhappy end評論(1)
園子温監督の元で腕を磨いた松尾大輔監督の初長編。 監督直々にDMをいただき、試写室にて鑑賞した。今年は有り難いことに、たくさんの自主映画を見させていただいているが、特に力量とエネルギーを感じさせる作品だった。失踪が巻き起こす空白と正義感。入口の景色は出口に無く、見える部分が見えない部分の想像を駆り立て、そこに容赦がない。
撮影は2年前。まだ河合優実も見上愛も駆け出しだった頃なはず。今となっては豪華なキャストになり、そのメンツの数々に驚くが、才能は皆光っており、見応えがある。その中でも、主人公のエイミを演じた鳴海唯は、今まで見たことのない表情と演技が強烈で印象的。沼のように堕ちていき、何処までも妹を探す姿に慄く。一方、仲万美は初めましてだったのだが、シリアスな雰囲気に潜む真っ直ぐさに息を呑んだ。パワフルな演技は作品の核となって滲む。また、奥野瑛太が出る事の安心感ったら。作品の深みにいざなってくれる。
内容は非常にハードボイルド。年に8万人が失踪する日本で、彼女の姿をただ探す。東京と琵琶湖、2つの街に隔てられた壁が、彼女の行方をくらます。琵琶湖という絶好な景色に隠れた痛みが、まさしく妹の2面性のよう。そこに潜む「影」といくつもの出会い、ネットや疑惑が謎に拍車をかける。そうしてたどり着く答え。96分を止め処なく彷徨った最果てに、つい体は疲れを覚えた。
豪華キャストの偶然と、鬼才のもとで磨かれた感覚、鋭く靭やかなプロット…非常に見応えのある作品だった。是非とも拡大上映して欲しい。