詩人・作家・映画監督として活躍したイタリアの異才ピエル・パオロ・パゾリーニが、20世紀を代表するソプラノ歌手マリア・カラスを主演に迎え、ギリシャ悲劇「メディア」を映像化した作品。イオルコス国王の遺児イアソンは、父の王位を奪った叔父ペリアスに王位返還を求める。ペリアスはその条件として、未開の国コルキスにある「金の羊皮」を手に入れるよう要求。旅に出たイアソンは、コルキス国王の娘メディアの心を射止め金の羊皮を持ち帰る。しかし王位返還の約束は反故にされ、イアソンはメディアと共に隣国コリントスへ向かう。そこで国王に見込まれたイアソンは、メディアを捨てて国王の娘と婚約。裏切られたメディアは復讐を決意する。2022年3月には、特集企画「パゾリーニ・フィルム・スペシャーレ1&2」(ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか)にてリバイバル上映。
王女メディア評論(1)
パゾリーニの映画は全て見ていたが、この映画は、そのどれとも違っていて、心に刻まれたのは女の阿修羅だった。
それから年月を経て『ノルマ』のCDを聴いて、あの修羅の裏側にある聖性を知って、初めてマリア・カラスの凄さを知った。
以来、ティット・ゴッビと歌った『トスカ』の映像はプッチーニのみならずオペラ史上最高演奏として愛して来た。
52年たち、2Kレストアされたのを再見すると、創世記の神話にする為の仕掛に気付かされる
音楽面では地唄の『熊野』がオルフェの竪琴のシーン、またブルガリアの歌唱 これらがメディアの母の哀しみを表し、王の式典ではチベットの法螺が妖しさを増す。
ロケ地はカッパドキアの岩窟寺院やピサの修道院、また水没する前、葦の住処が残るマーシュアラブの湿原地などの荒涼とした世界遺産の地で撮影されているのに驚かされる。
しかし 同じ設定で違うシーンが繰り返されたり、生贄の描写を執拗に描いたり、そして 唐突に迎える最後 パゾリーニは今もって謎を仕込みながら冥界からほくそ笑んでいるように思えた。