シリア内戦の緊迫した状況をマンションの一室に暮らす一般市民の視点からリアルに描き、第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞を受賞したヒューマンドラマ。3児の母であるオーム。彼女は家族と隣人を市街戦の危険から守るため、自身のマンションをシェルターとしてしていた。広場がスナイパーに狙われ、建物が爆撃で振動する恐怖におびえる中、シェルターに強盗が押し入ろうとするが……。ベルギー人監督のフィリップ・バン・レウがシリア北部のアレッポに住む友人の父親が住居から3週間出ることができなかったエピソードに触発されメガホンをとった。2017年・第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映。
シリアにて評論(6)
『スナイパーだ』で始まり、野菜か何かを手押し車で売る男性や客が逃げるシーンから始まる。シリアのダマスカスのMESSEHメザという地区で義理の父と子供三人と近所の家族などを夫が帰ってくるまで守り抜く力強い女性OUM(Hiam Abbath)の話。
Oum は生まれた時、家がなかったと。この住まいに対する愛着がとてもつよく、伴侶が帰ってくるまで家族と共に守り抜こうとしている。家政婦にも子供にも知り合い(?)の息子にも内戦のなかで的確な指示を与え、皆を守っている。しかし、一箇所これでいいのかと思ったシーンがあったが、一階上に住んでいた女性ハリマ(ハリマは夫と共にベイルートに逃げる計画があった。)がレイプされるシーンがあるが、Oumは子供達、家政婦、義理の父などを台所に入れて守り、ハリマを助けに行かなかった。でも、残酷な言い方だが、ハリマの一人を犠牲にすることにより、家族を含めて他の人々を助けることができると考えていたと思う。
この映画で私にとっての圧巻は主人公Oumの二番目の娘である少女が、レイプをされた女性ハリマに謝るシーン。『許してください。怖くて助けに行けなかったんですと。』誰も助けてくれなかったが、レイプをされた女性ハリマはこの言葉によって救われたと思う。
Oumの判断力、自分も家族を守るのが大変なだよと言って泣き言を言わず、一人の時だけ、悲しさを見せるたくましい人で、またハリマに対する慈しみもみせている。でも、家政婦の気持ちを汲んであげていなかったのが残念だが、私はシリアの文化社会構造については詳しくない。どこかに家政婦の気持ちも大切にしているシーンがあったのかも。
14作目
凄い映画です。
ただ、観ると凄く嫌な気分になるので、注意してください。
これは映画で、フィクションだという事は理解しているつもりですが、どうしても現実のシリアが脳をかすめます。
今世紀最大の人道危機という言葉の意味が少し分かったと思います。
実質的に家を仕切るお母さんは、完璧にリーダーの仕事をしていました。
リーダーとして、何を判断するのかを考え、最善の策を講じています。
時には凄く残酷な決断も下さなくてはいけない、非常にシビアな環境です。しかし自分が何をすべきか完全に理解して行動を選択しなくてはならず、かつミスは許されません。
個人的に、お母さんは正しい行動をしたと思います。
家族の、トイレを巡るシーンには本当にクスッとさせて貰いました。が、その後の悲惨な展開を思うと胸が締め付けられる様な重い布石に感じます。
役者さん達の演技も素晴らしく、それだけでも見応えのある作品だと思います。
この映画から、とてもリアルな恐怖を感じました。それは現実の紛争映画という側面だけでなく、ある種ホラー映画と題してもウソにはならない様な、そう言った類の恐怖です。
しかしホラー映画が、鑑賞後解放される様な感想を持つ存在としたら、この映画は、鑑賞後に現実のシリアのことを考えると本当の意味で恐怖を覚える、そんな映画だと思いました。
そういった点だけでなく、紛争や爆撃をマンションの内側からのみ描くという点や、観客を冒頭から映画に引き込み、最後まで全く呼吸をさせない様なプロットなど、本当に映画としてあらゆる面で優れていて、革新的な映画であるという観点から真に衝撃的な作品だと思います。
そして単に衝撃的な、単に革新的な映画というだけでなく、鑑賞者の心にずっと響いて忘れさせないような魅力を感じました。
この映画が日本で広く公開され、多くの方に鑑賞される事をお祈りします。
最初のシーンでモキュメンタリー映画は終わった。ヨーロッパ人ではわからない水の無駄使い。ドアの柵や出演者の衣装を含め全てが目新しいし、脚色されたドキュメンタリーの方がまし。映画のテーマとして悪臭がする。
UNICEF(ユニセフ)発表【2016年8月9日 ダマスカス発】
シリア・アレッポ
戦闘激化で電力網が損傷
200万人が水道水を利用できず
それだけ
戻らぬ夫の代わりに家長となった女性オームの願いは、単純に家族全員が無事であること。それゆえ時には非情にもなる。
特に中盤で起こるある展開には、観る者誰もがどうすればいいのか自問自答すること必至。そこで取った彼女の選択は責められるのか。
いや、砲弾も爆弾も飛び交う日常で暮らしていない我々に責める権利はない。
あと一つ言えるのは、女性は勘が鋭い。
前述の『娘は戦場で生まれた』や、『プライベート・ウォー』などと併せて観てほしい力作。