「暗殺の森」「ラストタンゴ・イン・パリ」などで知られるイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチが、1970年に手がけた長編監督第4作。ラテンアメリカ文学の鬼才ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」に収められている「裏切り者と英雄のテーマ」を原作に、物語の舞台を北イタリアの架空の町に置き換えて描いた。ファシストによって暗殺された父の死の真相を探るべく、アトスは北イタリアの田舎町を訪れる。この町で父は英雄的存在になっており、謎は少しずつ解明していくが、そこには意外な事実が待ち受けていた。ジュリオ・ブロージが若き日の父と息子の2役に挑戦し、「第三の男」のヒロイン役で知られるアリダ・バリが父の愛人役を演じた。日本では1979年に劇場初公開。2018年、デジタルリマスター版でリバイバル公開。
暗殺のオペラ評論(9)
そもそも舞台となるタラという田舎町に階段のある建物が少なく、被写体が階段を昇り降りする場面も少ない。
ところがしかし、どうやら父を暗殺したのがファシストたちではなく、3人の父の親友らしいことが分かってくるころから、登場人物たちはその立ち位置を、精神的にも物理的にも目まぐるしく変化させてくる。ただし、階段を昇降するところは画面には映らない。映っているのは、階段を昇ってそこへ辿り着いたであろう場面である。
自らの裏切り(なぜ裏切ったのかが結局分からないが)を仲間に告白する父アトスは町を見渡すバルコニーに上り、元ファシストの大地主と父の暗殺についての話をするため、子アトスは劇場の桟敷席を次第に上階へと移動する。父の死の真相を知った子アトスは、屋敷の二階にある父の愛人の部屋へ「上がって」行く許しを得る。
大地主や父の親友から話を聞くにつれ、父親の暗殺事件に隠された秘密に近づいていく子アトスであったが、最後に自らが陥った大きな幻想に気付くことになる。
この気付きの契機は、子アトスが駅のホームから線路に「降りる」ことで得られる。なかなかやって来ないパルマ行きの列車。雑草に埋もれたレールに「降り」立つ彼は、この線路には長い間列車が通過したことがないことを悟るの。
上階の桟敷席や、父の愛人の部屋に登り詰めた子アトス。父の死について深く理解し新たな人生の一歩を踏み出そうかという子アトスは、鉄路に「降りる」ことで、振り出しに戻るかのような不思議な感覚に襲われる。
この町で自分が見たものは、一体何だったのか。ここで出逢い、父親の遭難について話をした人びとは現実に存在したのか。廃駅となって久しいこのタラに降りたってからのことは、本当の自分の身に起きたことなのか。自分はどこから来たのか。
「裏切者は再び裏切る」という父アトスの言葉と、彼の胸像の眼がなくなっていることを観賞後一夜明けた観客は反芻している。
黒沢清のホラーのような、幻夢的な終幕である。
シェークスピアの劇「ジュリアス・シーザー」、「オセロ」、「マクベス」などにもヒントが隠されているし、3人の証言にはあやふやなところばかり。だんだん精神までもがおかしくなっていくアトスの様子と深まる謎が心地よく響いてくるのです。また小さな町にオペラハウスがあったりして不釣り合いなところもいい。
タラに到着した際には建物の映像はシンメトリーで美しく表現されているのに、終盤になるにつれ、暗くアシンメトリーに変化する。過去映像と現在の映像が混在し、主演のジュリオ・ブロージは36年の父と現在の自分の二役を演じていて、過去の3人も爺さんのままでややこしくなるのですが、父が赤いスカーフを巻いているのが唯一の判断材料。色々聞くうちに、36年には彼ら4人がムッソリーニを暗殺する準備をしていたのに、誰かが裏切り情報を漏らしたためにムッソリーニがタラを訪れなくなってしまったのだった。
真犯人に到達するのもアトス本人が精神的に追い詰められてしまったから・・・この不安定な感情も現在と過去が目まぐるしく変わるためだ。森の横を走っているといきなり赤いスカーフが現れるシーンが面白い。
しかし、エンディングを迎えると、実はこの町は無くなっていたのではないかと考えられるシーンもある。オペラハウスで唐突に演じられたとか、線路上の雑草などでそう考えさせられるのです。また、殺害前の4人が真相や計画を話し合っているときに、過去映像であるはずなのに町の屋根にはしっかりとテレビアンテナが立っているとか、アトスが一人芝居を演じているようにも思えるのです。そもそも静止した人々が多いこともおかしい。真実をしったアトスが妄想世界で演説しているような気もした・・・色んな考え方ができるますなぁ。
難解で重い雰囲気を漂わせている?本作だが物語は意外と単純に進んで行くようにも思えて。
しかし村からは抜け出せない不穏で意味深なラストの映像に深ぁく残る余韻が。
スイカが食べたくなる!?
序盤のゆったりとした流れ、静かな空気感に眠気を誘われウトウトした。前半は睡魔との戦いだったが、後半の話の流れは面白く集中して観ることができた。ただ前半ウトウトしてたせいか良く分からない部分もあり理解に苦しむところがあった。
とにかく絵画の様な映像美が印象的な作品だった。役者達も良く、反ファシズムの3人がとても良かった。
二本立てで観て、この作品の後に観た同監督の「暗殺の森」がドンピシャに好きな作品だっただけに、もう一度集中して見直したいと思った。
それ以上に映像が美しくシーンの端々にドラマが感じられドキドキしました。
初、東京都写真美術館ホール。