鬼才・岡本喜八が都筑道夫の小説「なめくじに聞いてみろ」(旧題「飢えた遺産」)を映画化したアクションコメディ。謎の殺し屋組織に命を狙われた男の戦いを、ブラックユーモアを交えながら二転三転するストーリー展開で描く。冴えない大学講師・桔梗信治は、自宅アパートに侵入してきた見知らぬ男に命を狙われる。男の正体は、人口調節のため無駄な人間を殺すことを目的とする組織「大日本人口調節審議会」が差し向けた殺し屋だった。偶然にも落下したブロンズ像が頭部に当たり殺し屋は死んでしまうが、その後も次々と信治のもとに刺客が送り込まれる。信治は偶然知り合った記者・啓子やコソ泥のビルとともに真相を追うが……。仲代達矢が主演を務め、天本英世が殺し屋組織のボス役を怪演。
殺人狂時代評論(10)
注目ポイントを2つあげましょう。1つ目は「大日本人口調節審議会」に所属する殺し屋たちの“個性”。「ジョン・ウィック」シリーズが好きな方には、是非鑑賞してほしいです。例えば「首筋を瞬時に切り裂くトランプ使い」「仕込み傘を携帯した老人」「義眼=暗器のマダム」「スピリチュアルで“殺す”女」「松葉杖を凶器にする男」などなど。どうです? ユニークな方々ばかりでしょ? 彼らが大活躍するのかと思えば、案外間が抜けている…でも、そこもクスリと笑える魅力!
2つ目は、信用することができない“主人公”。犯罪心理学の大学講師・桔梗信治(仲代達矢)は瓶底メガネに髭面、極度のマザコン、水虫持ち、ぬぼっとした語り口。素晴らしく冴えない中年男です(途中から小ざっぱりしますが、その変貌ぶりもイカしてます)。「3人の殺害」テストの1人に選ばれしまい、彼のもとへ殺し屋がやってくるのですが…。この導入が面白いんです。
殺し屋は「大日本人口調節審議会」に所属しているわけですから、元々狂人です。しかし、桔梗はそれを上回るほどの狂人であり変人。桔梗の言葉も、感情も、行動も、最初から全く信用ならないわけです。主人公に対する“共感”をひょいとかわし、殺し屋の襲撃をひらりと避けていく桔梗。この“信用ならない”という要素は、桔梗を魅力的な人物にするだけでなく“伏線”にまでなっているんです。旅のお供ともなる車泥棒の大友ビルは“第四の壁”を越えて、こんなことを言います。「あのー、これは一体どういうことになっちゃ……(ったの)?」。本当に、最後の最後まで“信用ならない”!
余談:「大日本人口調節審議会」のボス・溝呂木省吾を演じるのは、天本英世。その怪演も見応えたっぷり!
噂に聞いてたがこれは凄い。すっとぼけたユーモアとラディカルな編集など要所でコミカルな映画を装っているが、実態は岡本喜八の(毒)の部分を濃縮還元したような内容。ジャンルを超越したような趣きもある。ブラックジョーク・不条理コメディ・どんでん返しサスペンス・ハードボイルド、全て詰まってる。
なんと言っても仲代達矢の正体不明さを最大限に活かした主人公のキャラが素晴らしい。ちょっと何を考えてるのかわからない顔なんだよね仲代達矢。対する天本英世の怪演(というかいつもこんな感じだけど)も良い。団令子の色っぽさも実にいい。
岡本喜八だけに戦争の影もあり、ヒトラー演説を被せてくるシーンなども。色んな意味で濃い一作です。必見。
同監督の『大誘拐』が面白かった記憶があったんで、レンタル店でなんとなぁく借りたのだが……大当たり!
いやいやいや、モノクロの頃の日本映画でこんなにクールでトチ狂った映画があったとは!
凶悪なパラノイアを抱える人間を暗殺者に育てるマッドサイエンティスト・溝呂木博士の元を、『人口調節審議会』なる謎の組織の男(元ナチ軍人)が訪れる。
優秀な暗殺者を育て上げる博士を是非とも組織の一員にしたい。だがその為に、まずこちらが指定した3人の“不要な人間”を暗殺者達に始末させ、実力を証明してほしい、と。
話に乗った博士は早速“仕事”に掛かり、瞬く間に2人の暗殺に成功。
最後の1人も時間の問題かに思えたが……
この最後の男・桔梗がクセモノだった!!
大学講師だというこの男、髪も髭もボサボサでビン底眼鏡で水虫持ちでマザコンのどうしようもなくトボけたオッサンなのに、これが全然死んでくれない。それどころか送り込んだ暗殺者が、偶然だか何だか分からない手口でどんどん返り討ちに遭っていく始末。
桔梗はなりゆきで仲間になった記者・鶴巻啓子(団令子がキュート)と「車の運転なら任せろ」とのたまうチンピラ・大友ビル(オートモビル……)と共に逃亡劇を繰り広げる。実は、彼がターゲットに選ばれたのにも重大な秘密が……。
トランプで喉笛を切り裂く男!
殺人義眼を持つ女!
仕込み杖の老人!
次々に送り込まれる危険でヘンな殺し屋13人が楽しい。
桔梗を演じる仲代達矢も最初こそ胡散臭さ満点だが、暗殺者から隠れる為に身なりを整えるとこれがまたカッコいい。
しかしこの映画で一番素敵なのは、溝呂木博士を演じる天本英世!!(仮面ライダーの死神博士ね)
「君、人間にとって最大の快楽というのはね、殺人ですよ」
「私は力では君に勝てない。どうかね、スペイン式決闘で決着をつけようじゃないか」
などと不敵な笑みを浮かべて言い放つ姿は悶絶するほどクール。独自の美学を持ったエレガントな悪党ぶりは必見!
とまぁ、ブッ飛んだ映画です。ブッ飛びすぎて物語の展開やギャグまで飛躍してる部分もあるが、それは御愛嬌(笑)。終盤ちょっとしんみりしてしまう点は残念だけどね。
スコア4.0判定には『昔の映画なのに』という驚きも含まれているかもだが、それを差っ引いても今の下手なエンタメ邦画より活きが良くって面白い!
未見の方は是非是非。
<2010/11/9鑑賞>
チャップリンの同名映画が遥に有名だが、同名異作で全く内容は関係はありません
主演の仲代達矢もこんなカッコいいヒーロー役観たことありません
天本英世も素晴らしい怪演です
彼のファンならマストの作品です
日本で007シリーズをもし撮ったとしたら、気恥ずかしい陳腐なものしか想像できませんが、本作を観たならやれたかも知れないと思わせます
日本映画で最も007シリーズに近い映画だと思います
岡本喜八監督凄いです!