デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーの長編第5作で、第49回カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞するなど世界的に高く評価された愛の物語。1970年代初頭、プロテスタント信仰が強いスコットランド北西部の村。信仰心の厚い無垢な女性ベスは、油田で働くよそ者のヤンと結婚する。ベスは遠く離れた油田へ仕事に行ったヤンの帰りが待ちきれず、彼が早く戻ることを神に願うが、その願いは思わぬかたちでかなえられる。ヤンは仕事中の事故で重傷を負い、全身麻痺となってしまったのだ。ヤンは妻を愛する気持ちから彼女に愛人をつくるよう説得し、ベスもまた夫を愛するが故に見知らぬ男たちと関係を持つようになるが……。主人公ベスをエミリー・ワトソンが見事に演じ切り、映画デビュー作にしてアカデミー主演女優賞にノミネートされた。
奇跡の海評論(14)
トリアー作品を暗い、重いって言う人は多いけど、私は、ある種のパロディと思う。
この映画も、キリスト教のパロディだ。
夫を愛し妄信する女主人公は、イエスを信仰する信者のカリカチュアである。
夫(イエス)の言う通りにすれば、救われる。そう信じて、夫の指示に従い、いろんな男と寝まくる女主人公。
「すべての人を愛せよ」というイエスの言葉を、そのまんま実践・実写化したら、実はこういうことになっちゃうじゃないの?というトリアーの嫌味である。
女主人公の住む村には、敬虔なキリスト信者たちが居て、ニンフォマニアそのものの女の行動に眉をしかめる訳だが、そんな信者たちよりも、実は女の方が真摯に愚直に神を信じている。女の行為は実に宗教的である。その行動は愚かで過酷であるが、信仰の真の姿とは、かように過酷なものなのだ。あなた達、既存の信者に、そんな覚悟はありますか?という、問いかけの映画なのだと思う。
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この映画が、何か非常に心に残る魅力を持っているのは、トリアーの考え方の面白さというよりも、エミリー・ワトソンの神がかった演技にあると、個人的には思う。
どうしようもなく愚かな女の行動を、愛の物語、信仰の恍惚へと、昇華させている。
「信仰」って変でしょ?のつもりで作った映画が、「愛」そして「信じること」の崇高さが際立つ映画になっている。
これ、「宗教って変だよね?」を問いかけるために、イエスの行動を敢えて写実的に撮ったパゾリーニの『奇跡の丘』が、数ある宗教映画の中でも実に感動的に仕上がってしまったのと、どこか似てるなあと思う。
献身的な妻が夫のために無条件の愛を行動で示し・体験していく…という愛についてのストーリー。愛、後悔、自己犠牲、罪悪感、狂気、宗教、嫌悪感などのキーワードがお好きな方にお勧め。
映画自体長いのもあるが、スローペースでじわじわ責めすぎ感はあるが、映画としてはすごく完成度は高いと思う。
気が弱っている方(特に女性)は観るタイミングをお気をつけください…。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と同じ監督さんですが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の方が遥かに作品の出来が良いように思えました☆。
20分くらいの章立てになっていて、最初の3章までが眠くて1章毎に寝てしまい、最後まで見るのを諦めようかと思ったけど続きを見たら4章からようやくドラマが大きく動いて面白くなった。どんどんおかしくなっていく奥さんに目が釘付けだ。彼女は根が真面目すぎて派手な服を着ても全然似合わないのに、変なことをさせられてわけが分からないし、とにかく大変で気の毒だ。大きな船の人たちが嗜虐性の強い完全な暴行魔として描かれていて、いいのかな。
ラースフォントリアー監督なので人間描写はピカイチでした。ヒロイン、ダンナ、義姉、母、全ての登場人物に魂がこもっててほんとによかった。
義姉の神父達に最後に怒鳴ったセリフもすごくカタルシスがあった。
うん。ちゃんと悲しい。ちゃんと鬱。