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テオレマ評論(2)
豊かなブルジョアの家庭で行われたパーティーになぜか来ていた美しく若い青年。なぜか数日間滞在する。まずメイドのエミーリア、次にブルジョア・ファミリーの息子のピエトロ、そして母親のルチア、その夫、最後に娘のオデッタの順番で青年と関わる。青年はただ居るだけ。自分から行動を起こしたりしない。でも目の前の相手が何を望んでいるのか全部わかってしまう。そして一人一人の望みを全て叶えてしまう。相手と寝ることで、相手の苦痛を和らげることで、お茶目な格好をしてカメラの被写体になることで。そして青年はなぜかどこかに帰り彼の不在がいきなり始まる。不在がそれぞれの5名に大きな影響を与える。
突然の到来と突然の不在。キリスト教の神?御霊?その子イエス?よくわかんないです❗️
ブルジョアの人間でないエミーリアは彼の不在からどんどん美しくなり髪は緑色になりバジルのような葉しか食べず、病にかかった幼子を治癒し空中浮遊し最後は生きながら土に埋めてもらう「聖人」になってしまう。
ブルジョアの家族たちは聖人にはなれなかった。家を出て現代絵画の世界に入ったピエトロ、ルチアは青年に服と雰囲気の似た若い男に始まる男漁り、オデッタは右手をぎゅっと握りしめたまま硬直状態で病院へ、一番苦しいのは全裸・父親、労働者のために善行を行ったのかも知れないのに。
パゾリーニ、初めて見ました。大変な経験でございました。
パゾリーニ監督らしい独創的で唯一無二な内容に感動。とあるブルジョア一家の元にひとりの男が現れる。その男は家族一人一人の乾いた心に潤いを与え、凝り固まった固定概念を揉み解し、真理へと導いてくれる。その様子は正に救世主であり神そのもの。しかし暫くすると男はその家族の元を立ち去ってしまう。神が不在となった家族。真理に気が付いてしまった分、今までの私利私欲に満ちた漠然とした生き方に虚しさが募るばかり。過去に自分達の心を満たしてくれていると思っていた地位や階級、所有物や名誉は虚しく空虚な虚構の幸福だということに気が付いてしまう。慰めを失った彼らは、外的な財宝で心を着飾り誤魔化してきた分、精神的な財宝を蓄えてきていなかったので、虚栄が無価値となった今、自分自身で自分自身の心に幸福を見出すことが出来ない。正しく裸の王様になってしまう。
パゾリーニ監督らしい共産主義の思想と無神論が色濃く出ている作品で共感できるものが沢山あった。独創的で唯一無二な内容とメッセージ性が圧巻な素晴らしい傑作だった。