巨匠・溝口健二の代表作で、戦乱の中で世俗の欲に翻弄される人々を幽玄な映像美で描き、多くの映像作家に影響を与えた世界的名作。上田秋成の読本「雨月物語」に収録された「浅茅が宿」「蛇性の婬」の2編にモーパッサンの短編「勲章」を加え、川口松太郎と依田義賢が脚色、宮川一夫が撮影を手がけた。戦国時代、琵琶湖北岸の村。戦乱の到来を機に大儲けを狙う陶工・源十郎と、侍として立身出世を夢見る義弟・藤兵衛は、それぞれの家族を連れて舟で琵琶湖を渡り都を目指す。旅の途中、源十郎の妻子は戦火を怖れて引き返し、藤兵衛は妻を捨てて羽柴勢に紛れ込む。やがて源十郎は、若狭と名乗る妖艶な美女から陶器の注文を受け、彼女の屋敷を訪れるが……。1953年・第14回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた。
雨月物語評論(14)
お話自体は耳なし芳一と牡丹灯籠を足してわったような感じで日本独特の怪談ものが当時は受けたのかな?と思います。
亡霊の美女である京マチ子の登場していた場面は大人でも恐怖感を覚えるほど迫力あるものでした。
欠点の見つからなかった映画で、溝口監督に脱帽でした。
「どうして、そんな馬鹿なことを...」と映画をみている分には客観的に思えることでも、現実に生きていると利口的な生き方はできないもの。
欲に囚われ、改心できたとしても、二度と元に戻ることができないこともあるということを突きつけられた。
ねっとりと苦々しい怖さは、日本らしいと思える。
怪異という存在は、生きている人間をただ怖がらせるだけではないという点は情緒的であり面白かった。
総毛立つ思いとはこのことです
怪談、つまり今風に表現すればホラー映画
それではあまりにも安っぽく、この本作を侮辱しているように感じます
単に物語が怖かったからだけで総毛立ったのではありません
美術、衣装、メイク、ヘア、照明、撮影
もちろんのこと出演者の演技、監督の演出
これらのものが渾然一体となって日本の美意識が隅々までフィルムの中に焼き付けられています
これこそ美術品です
映画の枠を超えて、日本美術の粋といえます
京都国立博物館の国宝展で観ることができる最高峰の日本の美術品に比肩するものです
日本の映画芸術の最高の才能と最高の美意識と教養がなし得た偉業です
日本映画の最高到達点のひとつです
夜霧たなびく湖水を渡るシーンの幽玄の光景
朽木屋敷の夕闇の中次々に燭台が灯る美しさ
若狭姫の能面のように整った容貌がいつしか不気味さをたたえる陰影
何もかも鳥肌がたつ程の芸術です
田中絹代の言葉の美しさ
気高く気品のある立ち振舞い、所作
決して美女ではないが最高の理想の女性の姿
そこには微かなエロシズムすらあるのです
驚嘆するばかりです
極めて日本的なドメスティックなようで、実は世界のあらゆる国や民族に普遍性を持つ物語と美意識であり共有できるものなのです
これ程のものは世界でも希有のものです
疑いもなく世界の映画芸術の最高峰の一角を占める作品です
本作のそれらの驚くべき凄さが本作を観て総毛立つ思いにさせたのです
このような超絶的な作品は残念ながら二度と撮ることは叶わないでしょう